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痛いけど痛いことをするとき

 (アーカイブ;2005年12月号)

 

 

 でこぼこの草地を走っていたときです。「イテッ!」と思ったら、左のふくらはぎがひきつれて走れなくなってしまいました。仕事がら、何がおこったのかすぐにわかりましたが、はれも少ないし、たいしたことないだろうと思って、しばらく様子を見ることにしました。ところが、なかなかなおらない。軽いジョギングぐらいはできるけれど、かかとのばねをきかせて速く走ろうとすると、痛くて止まってしまいます。1週間はがまんしたけれど、2週間たってもなおるきざしが見えません。ふくらはぎをさわってみたら、うちがわのほうに固いしこりがあって、押すと強く痛みます。

 

 さて、どうしたもんだろう?患者さんのことは冷静にみれても、自分のこととなると、きちんと判断ができない。ランニングはストレス解消が目的なので、走れないと、ストレスがたまってしまいます。その証拠に、ほら、血圧まで、上がってきた!いやー、からだってしょうじきだなあ。ちょっとしたことで、体調が変わってしまうのです。

 

 これは、何とかしないといけない。そこで、うちのスタッフに治療をお願いすることにしました。休み時間に治療してもらうのはもうしわけないと思うものの、せにはらはかえられない。事情をお話して、治療台に上がりました。

 

 「イッテー!」わかっていたものの、やっぱり痛い。そうなんです、筋肉のかたいしこりをほぐさないといけないのはわかってるんですが、治療はちょっと痛いのです。でも、治りたいから、ここはがまんがまん。できるだけ力をぬいて、治療がしやすいようにしなくちゃ。

 

 でも、痛い!スタッフの顔を見ると、ニコニコしています。治療を受ける側としてみると、思いっきりつねられたり、ねじられたりしているという感じなのに、それほど力を使っているようには見えません。そうなんです。これは、うちのクリニックでよく使っている治療法で、一種のストレッチ法です。ほんとうに痛いところをみつけて、集中してストレッチをかけると、びっくりするくらい、痛みが良くなることがあるのです。患者さんに、「痛いところに痛い治療をします。」などと、平然と話しているわたしですが、自分で受けてみると、やっぱり痛い。でも、早く治りたいから、がまんがまんがまん…。

 

 さて、終わったぞ。仕事が終わるのがまちどおしい。終わったら、さっそく走ってみるつもりです。

 

 走ってみると…走れる走れる!まだ少しはりがあって、全力疾走はむりだけれど、ぜんぜん痛みが違います。希望の光が見えてきた、そんな感じです。

 

 3日後、二回目の治療を受けました。痛いけれど、この前ほどではない。スタッフに聞いてみると、軽くやっているわけではなくて、この前と同じようにやっているとのこと。終わったあと、ふくらはぎをさわってみると、しこりがずいぶん小さく、やわらかくなっています。

 

 走ってみると…バッチリだ!しっかり走れます。こんな感じは3週間ぶりです。スタッフに感謝感謝です。そして2週間後。高尾山のマラソン大会に出てみました。山を登ったり下ったり、15キロを走り抜けます。これも無事に完走、こうして故障がなおったのを確認できました。

 

 

 

 「痛いところに、痛い治療をしますよ。」というと、患者さんはちょっとひるむようです。あたりまえですね。だれだって痛いことはされたくないもん。

 

 でも、どうしてもそうしないといけないときがある。痛いけれど、がまんしなければいけないことがある。

 

 ほんとうは、これを大声で言いたくはないのです。だって、痛いことはしてはいけません、って言うこともあるんですから。

 

 なんだか二枚舌みたいですね。てきとうに言ってるんじゃないの?って言われそうです。じつはてきとうなんです、いえ、ウソですよ!ちゃんと考えて言ってるんですよ。

 

 急性期という、まだ故障がおきてまもないころ、熱を持って脹れているころは、痛いことをしてはいけない時期です。安静を保ち、冷やすといい時期です。

 

 痛いところに痛いことをする治療法ができるのは、慢性期という、腫れが引いてきて、熱を感じなくなったころからです。このころになると、ズキズキとする痛みはなくて、動かしたときだけ痛いという症状になります。

 

 痛いところにする治療法というのは、大まかに言うとマッサージやストレッチの仲間です。センモンテキに言うといろいろとあるのですが、ここでははぶきます。もちろん、患者さんを泣かすために治療をしているのではありませんので、痛みのできるだけ少ない治療ができるようなくふうをします。力の入れ方とか、特殊な動かし方をするとか、方法はいっぱいあります。

 

 でも、やっぱり痛いときは痛い。痛いけど、治ってくる。治ってくると、うれしい。患者さんも、わたしたちもうれしい。この仕事のだいご味を感じるときです。

 

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