· 

むかしの名前ででています ~慢性の腰痛ってなんだろう~

 (アーカイブ;2006年9月号より)

 

 

 

「今日は、どうしました?」

 

「腰が痛くて、どうにもならなくてきました。」

 

「いつごろから痛むのですか?」

 

「じつは、中学生のころ、スポーツをやってたころからなんです。高校や大学のときもときどき痛くなってたんですが、勤めはじめてからは年に何回か動けなくなるくらい強い痛みが出るようになりました。」

 

 

 

 よくある相談です。むかしから、腰痛がときどきおきて困っている、今回は痛みが強いので、なんとかしてほしいということです。気持ちはよくわかるのですが、こういった説明のうらには、話している人の心の中に、暗黙の前提というか、当然そのはずだという考えがかくれているように思います。

 

 それは(自分の腰痛は慢性のもので、むかしからそれが出たり引っ込んだりしている)という考え方です。

 

 今回は、この考え方にまとをしぼってお話したいと思います。というのは、自分のからだのことをどうとらえているか、自分の病気をどのようなものと考えているか、これをきちんとしておくことがとても大切だからです。

 

 考え方一つで、良くも悪くも見える、いや、実際に良くなったり悪くなったりする。たくさんの患者さんを診ていると、はっきり気づかされるのは、気の持ちようってホントにあるんだなあということです。

 

 だからといって、ウソの説明はできません。うそはつかないけれど、ホントのことを理をもって話してみる。これが大切なことです。

 

 それでは、初めの相談にあるような腰痛は慢性の腰痛と考えていいのでしょうか?

 

 じつは、たいていのケースでは「慢性の腰痛と考えないほうがよい」のです。

 

 これを患者さんに説明するときに、(ちょっとイジワルかなと思ったりもするのですが)かぜのたとえをよくひきあいに出します。

 

 

 

「あなたは年に何回かかぜをひくことがありますか?」

 

「ええ、あります」

 

「年に2,3回、かぜをひくとして、1回あたり1週間くらいは調子が悪いですよね。」

 

「そうですね。」

 

「それでも、年に2,3回、合計3週間くらいかぜをひいているからって、じぶんが慢性のかぜひき症候群とは考えないでしょ。あなたの腰痛も、話を聞いていると、年に2,3回、1週間くらい調子が悪いくらいだとすると、かぜと同じようなもんだから、慢性の腰痛と思う必要はないんじゃないですか?」

 

 

 

 くすっと笑ったり、にやっとする人もいますが、なんかだまされたようだと思ってか、ぶすっとする人もいます。でもくりかえしになりますが、考え方ってだいじなんですよ。こういう説明をするのは裏づけがあるからなんです。

 

 ひとのからだは、どんどん変わっていきます。一年前と同じでないどころか、きのうと今日でも同じではありません。見た目は同じように見えても、細胞のレベルではからだはどんどんと更新されています。実感がわかないかもしれませんが、更新されなかったら、からだはこわれていく一方です。毎日更新されているから、キズも治るし、かぜも治る。おなかをこわしても治る。腰が痛いときには、腰のところにある筋肉、関節、ほねや軟骨に故障がおきていますから、これも多少の時間の差こそあれ、やはり治ってきます。

 

 だから、腰痛と腰痛の間には症状が出ない潜伏期がある、と言う考えはまちがいです。腰痛のない時期はちゃんと治ってるんです。ただ、からだの状態や、毎日の生活や仕事でのむり、使い方のくせなどがあると、腰痛が出やすいという人はいます。

 

 こういう人は、腰痛になりやすい原因をつきとめて、腰痛にならないように予防することがだいじです。つまり、腰痛になってからあたふたするのではなく、日ごろから腰痛になりにくいからだや生活習慣を作り上げることです。「のどもと過ぎれば、熱さ忘れる」ではいけないということです。

 

 

 

 こういうふうに考えていますから、慢性の腰痛がぶりかえしたという相談を聞くと、昔のことも今のこともごっちゃにして、同じ名前で呼んでいる感じがします。若いときに椎間板ヘルニアになったからといって、20年後の腰痛が椎間板ヘルニアとは限らないのです。

 

 いつ出てきても昔の名前で呼ばれる。そういえば、「むかしの名前ででていますー」という歌謡曲があったなあ、なんて思い出します。