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慢性筋損傷とは

ティム・ノークスのrunning injuryより

 

 ランニングなどスポーツをしている人が、けがは治ったはずなのに痛みが抜けなかったり、はっきりした理由もないのに運動中に痛みを感じるようになることは珍しくありません。慢性筋損傷はそういったケースで考えなければいけない原因の一つと言えるでしょう。

 

 文中でティム・ノークスさんは一般的な治療が慢性筋損傷にいかに役立たないかを痛烈に批判していますが、ノークスさん自身も医師で、南アフリカ・オリンピック委員会の顧問を務めている方です。自身もランナーなので、本当に選手に役立つ治療は何かを追求した結果、この本を書きました。非常に面白い本なので、中身をおいおい紹介していきましょう。

 

 

 慢性筋損傷は、エリート長距離選手で一番多く見られるけがであり、全ランナーのけがのなかでは3番目に位置する。しばしば誤診され、またとてもつらい症状となる。そして、ある特定の治療法にしか反応しない。

 

診断

 

 この損傷を見つけることは、比較的たやすい。特徴は以下のごとくである。

 

・ 痛みはゆっくりと発症する(急性損傷では痛みの発症は突発的である)。

・ 基本的に、エクササイズの後に発症する。

・ エクササイズ中に痛みが生じた場合、はじめはやり過ごして練習を続けることもできる。しかし症状はしだいに悪化し、練習に支障をきたすようになる。とくにスピード練習ができなくなる。

・ 通常、痛みは大きな筋肉に発症する。でん部、鼠径部、ハムストリング、あるいはふくらはぎなど。

・ 痛みは深く、うずくようで、かなり強いこともある。しかし、安静によりすみやかに改善する。

・ もしふくらはぎに損傷があるならば、つまさきでふみきることができなくなる。これは問題の筋に防御スパズムがおきるからである。

・ 骨・腱の損傷では、適切な安静期間をとることで損傷から回復できるが、対照的に慢性の筋損傷では、適切な治療が行なわれないかぎり(安静のみで)改善することはない。結果的に、なんら症状の改善が見られないまま数ヶ月ないし数年を過ごしてしまうこともおこりうる。

 

 この障害をきちんと診断するためには、ランナー(理学療法士)は問題の筋肉を2本の指でしっかりと押さえて、痛みの場所を確認する必要がある。きわめて痛い、かたいしこりを触れたならば、慢性筋損傷と考えてよい。

 

 この障害は筋におきるので、レントゲンでみつかることはない。したがって、レントゲンを使った診断には何の意味もない。MRIならば、異常所見をみつけられるかもしれない。

 

 治療

 

ストレッチ・筋力強化について

 

 いずれも治療には役に立たないが、障害の予防という点では意義がある。とくに遠心性筋収縮運動は重要である。

 

特別な治療法

 

 薬物や注射を含む一般的な治療法は時間のむだである。唯一の効果的な治療法はcross-frictionとして知られる手技療法である(crucifixion-磔治療といったほうがいいかもしれない。というのは、もっともきついレースに出るほうが、この治療を受けるよりもマシ、と考える選手も多いからである)。

 

 この治療を行なうにあたってのポイントをいくつか挙げたい。まず、cross-friction massageは、(a)痛みのあるしこりに行なうこと、(b)適切な圧力でおこなうことがだいじである。ときには、強い圧迫で行うより、よりゆるやかな圧迫で行なうほうが効果的なことがある-とくに高齢者や、症状が数ヶ月以上続いている場合において。多くの場合、数回の治療で症状は速やかに改善する。

 

 治療が正しく行なわれたならば、走っているときの痛みは減少し、しだいに長い距離を走れるようになってくるはずである。多くの場合、じゅうぶんに走れるようになるまでに各回ごとに5~10分、計5~10回の治療が必要になる。損傷が生じてから6ヶ月ないしそれ以上の時間が過ぎている場合、さらに長期の治療が必要になるだろう。