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運動感覚をとりもどす2 ボブの場合

 ボブさんは85歳で、長い間腰痛に苦しんでいました。よちよちと腰を曲げて歩き、背筋を伸ばすことができません。お腹や背中はガチガチに突っ張っていて自由に動かすことができません。

 

 腰痛を繰り返すうちに知らず知らず身を固めるクセをつけたためか、骨盤を動かせと言われてもその感覚がわかりませんでした。

 

 セッション1回目、まず床の上に寝てもらう動作だけでも苦労しました。そこから寝たままでやる腰の運動を指導しましたが、がんばってやろうとするのですがなかなかできません。

 

 ところが小一時間練習したところで急に動かす感じがわかってきました。本人にすれば、腰ってこんな感じで動かせるのだと驚いたようでした。

 

 家で毎日3回この練習をするよう言われ、ボブさんは帰宅しました。真面目につづけた3週間後、2回目のセッションで「ずいぶん楽になって、椅子からも立てるようになった」と話しました。付き添っていた奥さんもうれしそうです。そこで前だったら難しくてできそうもなかった練習法にチャレンジすることになりました。「今までこんなにハッキリ良くなったことはなかった!」と本人の言です。 

 

 

 ここでクレイグさんがやっているのは、運動を「本人に」感じさせる練習です。筋肉に力を入れることは当たり前にできるように思えますが、実際に患者さんを診察すると、腰や骨盤をちょっと動かすだけなのにできないという方は珍しくありません。文字通り手取り足取り指導するのですが、なかなかその感覚をわかってもらえず苦労することがあります。

 

 ところがこの感覚が「わかってくる」と進みが早いのです。

 

 ボブさんのような人は確実にいるのですが、時間、場所やご本人の状況や考え方などが理由でなかなか練習ができない。こういう歯がゆい状況になることがあって、悩みの種です。

 

 健康保険の制度内でどこまでやるのか、できるのか?も困った問題です。一般の医療現場ではしてもらうリハビリは人気ですが、「させられる」「自分でやる」リハビリを治療と思ってもらえない経験をよくします。コストも無視できません。再診処置料1000円ちょっとで1時間かけることは不可能です。いろいろ考えると健康保険以外のやり方が運動指導には必要なのかもしれません。

 

 もう一つ考えなければいけないのは、「身を固めるとなぜいけないのか?」です。筋肉は、力を入れ続けると疲れてしまいます。そして疲れが溜まれば筋肉痛が出ます。腰痛や肩こりなどよくある相談のかなりの部分が筋肉の問題なのですが、無意識に力を入れて身を固めている人が多いです。対症療法的なマッサージで症状を改善したら、さらにボディワーク、トレーニングや運動指導へ...といけば理想的なのですが。

 

 ボブさんもいきなりこんなに面倒くさくて、手間のかかる治療(運動)を望んでいたわけではなく、あちこちで治療を受けてもダメだったからやる気になったし、実行もできたのです。

 

 クレイグさんの挑戦は続きます。年齢に関係なく運動感覚の障害が起きるのを見ていきましょう。