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脊椎分節という考え方

 

 パソコンが動かなくなったときのことである。サービスセンターに依頼し、1週間で修理が終わり、機械がもどってきた。今の修理はとても早い。なぜか?細かい修理はしないで、おかしな部分をユニットごとに選り分けて、まとめて交換するからだ。

 

 今の電気製品はエレクトロニクスのかたまりで、以前のようにテスターを使ってどこのコンデンサーがおかしいとか、トランジスターがだめになったとか診断するには複雑すぎるし、部品も細かくて人の手では対応できなくなった。だから、まとめてユニットを交換することが現実的だし、費用的にも理にかなっているのだ。

 

 このことを、人間のからだの修理にもあてはめて考えることができるだろうか?

 

 人間の筋肉や、神経のネットワークの複雑で微細な構造は、どんな最新のメカニクス、エレクトロニクスにも負けない。これを細かく分析して原因を突き止めようとしても、どうしても限界がある。ポピュラーな訴えである腰痛を考えてみても、痛みの理由が関節なのか、じん帯なのか、軟骨なのかをおおざっぱに見きわめるだけでもむずかしい上、組織にどのようなダメージが起きて、どういった経路で脳に痛みを自覚させるのかを明らかにすることはほとんど不可能に等しい。最新の検査装置といえども、医師の可能な限りのていねいな診察をもってしても、皮ふの下にあるあらゆる組織の状態を正確に評価することはむりだろう。

 

 では、どうしたらよいか。そこでかたまり=ユニットという考え方が現実的な解決策になる。腰痛の原因は少なくともこのへんにありそうだというおおざっぱな枠を考えて、そこに診断を落とし込み、治療をしていくということである。

 

 具体的には、①腹部臓器からの関連痛、②骨折など骨由来の疼痛、③各脊椎間を構成する要素-椎間板、関節および周囲の軟部組織すべて、④周囲の筋組織、⑤脊髄・馬尾神経、⑥いずれにも当てはまらないもの-血管炎のような全身疾患、心因性疼痛、と分けてみると良い。

 

 とくに③が重要で、これが脊椎分節といわれるものである。筋のように触診できる範囲内に痛みの原因は見当たらないが、日常の動作ではあきらかに脊椎の運動制限と痛みがある場合の多くがこの中に含まれるはずである。レントゲンやMRIの結果だけでは判断できず、問診や診察がとても重要である。

 

 しかし、いくら細かく調べても、分節のどの要素にどれくらいのダメージがあるかはわからない。だったら、まとめてユニットとして考えて、対応を考えたほうが良い。これが現実的である。

 

 脊椎分節由来の疼痛をマニュアルメデシンで治療するときには、マッケンジー法が役に立つ。患者さんの反応をもとに治療方針を判断していくので、柔軟に対応できる。モビリゼーション後に痛みが軽くなっていれば、ディスファンクション、そのままgo!となる。痛みが悪化するならば今の治療は中止してほかの方法を考える。

 

 ただ、機械の修理のように、故障した部分をおおまかに分類して、ユニットごと交換することはできないから、ユニット全体としての機能の回復を考える。

 

 椎間板であれ、椎間関節であれ、出てくる反応は運動制限と痛みの反応である。この反応を利用して、問診、触診とマッケンジー法による判断をまじえながら、治療の計画を立てる。急性期は組織の修復が行なわれるまでは安静中心、移行期は状態を見ながら安静から運動へ、慢性期では積極的に組織の可動化を計る。結果をみて、やりかたを変えていくことも必要になる。

 

 手技療法では、筋由来の障害と脊椎由来の障害を扱うことが可能である。そして本格的な神経組織へのダメージがないかぎり、多くのケースに対応できる。

 

 そして、脊椎分節という考え方が、とても実用性を持つのである。