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しびれた、さあどうする?

 

 

 しびれの相談はめずらしくないのですが、奥が深くてなかなか説明がむずかしいです。今回のお話です。

 

1 だれにでもしびれは起きる

 

 私の実感では、しびれの相談が十あるとすると九割がたはほっとくか様子を見るだけで済むもの、残り一割は調べたほうがいいものです。先日マラソン大会に出たとき、脱水が原因で指が腫れてしびれました。ゴールしてからたっぷり水分補給をしたらしびれが治りました。そのほか競歩の練習で腕をいっぱい振ってしびれたり、長時間のランニングで坐骨神経痛(しびれ)が出たりいろいろなしびれを経験しました。

 

 救急外来に勤務しているときよく診たのは過換気症候群の患者さんで、からだじゅうがしびれ、息が苦しくて救急車で担ぎ込まれます。本人にすれば苦しくて死にそうなのですが、患者さんの口に紙袋をあててゆっくり呼吸させる(今は古いやり方)とすぐに治りました。私自身なったことがあって、あの切迫感・恐怖感はよくわかります。

 

 デスクワークなどあまり体を動かさない人たちの中にも手足のしびれを感じる人がいます。厳密な意味でのしびれ(神経障害)ではなく、脳やせき髄の検査をしてもはっきりした異常は見つかりません。ここからは私の意見なのですが、おそらく慢性型の過換気症候群(習慣的に呼吸が浅い)だと考えています。細かい理屈は省きますが、深い呼吸の仕方を覚えてもらうとしびれがなくなってくるようです。

 

 正座を続けて足がしびれるのはかなりの人が経験していると思います。腕を上げた格好や横向きで長く寝たりして腕がしびれた人もいるはずです。どちらも神経が圧迫されるために起きると言われています。細かく診ていくと、手足のあちこちに神経のウイークポイント(骨のすきまや筋肉の中で神経が圧迫されやすい部位)があり、相談を受けるしびれの多くはこれが原因です。

 

2 これは要注意!しびれ

 

 つぎにほっといたら×のしびれを考えてみましょう。

 

  • 脳から来るしびれ・・・脳梗塞や脳出血でしびれが出ることがありますが、たいていは運動まひなどほかの症状が合併します。

 

  • せき髄から来るしびれ・・・神経の経路に沿ってしびれが出ます。痛みが伴うことが多いですが、しびれだけのこともあります。多くは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が原因ですが、三浦雄一郎さんのせき髄血腫のようにめずらしい病気もあります。

 

  • 神経そのものの炎症・・・脳・脊髄・末梢神経それぞれに炎症(難病指定のことが多い)を起こす病気があります。しびれる場所がだんだんと変化していきます。肩から腕に激痛がおきる神経痛性筋萎縮症もたまに経験します。

 

  • 糖尿病・リウマチ疾患など・・・糖尿病で有名なのが手袋・靴下型のしびれです。太もも前方の痛み・しびれがでることもあります。そのほか小さな枝神経の故障があるとあちこちにしびれが生じます。

 

  • 栄養不足・・・意外に多いのがビタミンB1の欠乏症です。足首から下の感覚が鈍くなります。白米中心の食生活で少食だとなりやすいです。ビタミンB12の欠乏症もちらほら見かけます。胃の手術後、胃酸を抑える薬の常用、動物性食品の摂取不足(ベジタリアン、少食の人)がある人でしびれ・歩きづらさがあったら可能性があります。

 

 そのほか、 内臓の病気、がん、トリガーポイントのような筋肉の故障でもしびれがでることがあります。

 

3 しびれとのつきあい方

 

  • 生活に支障のないしびれだったら、とりあえずのんびりかまえましょう。食事内容や睡眠に気を配り、運動やストレス発散を行いながら様子を観ましょう。多くのしびれは自然に消えていきます。

 

  • 痛み、筋力低下、歩きづらさ、手先の細かい作業がしずらいなど、しびれ以外に症状があるときは一度お医者さんに相談してみてください。

 

  • 「しびれ」にはいろいろな感覚があって、人によって全然違うことを言っている気がします。自分のしびれがどんな感じなのか(ズキズキ、ちくちく、ぴりぴり、何かがくっついている、だるい、動かしにくい、力が入らない、つかれる、ふらふらする他)、どんなタイミングであるのか(24時間連続、ときどき、たまに、一回だけ、何かをしているときだけなど)、どこらへんに感じるのかを説明できるようにしましょう。しびれは目に見えないので、あなたのことばがたよりです。ここをきちんとやらないと、正しい診たて・治療に結びつかない可能性があります。