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なにが正しいか考えよう

 

 

 当時の常識がまちがっていて、新しい考え方のほうが真実だとわかったとき、すぐに受け入れる人はまれです。「太陽が地球を回っているのではなく、地球が太陽を回っているのだ」という考えがひろく受け入れられるようになるのには数世紀の期間が必要でした。しかしスマホやネットがあたりまえになり、ものごとがガラッと変わるスピードが速くなった今、新知識についていくのがたいへんです。新しいことと向き合うヒントをお話しします。

 

1 コロナはただのかぜ?ワクチンは有害?

 

 21世紀の時代に、まさかこれほど新型コロナという伝染病が広がるとは!長らく医学では伝染病をどう克服するかが大きなテーマでした。一般的な見方では伝染病は世界の一部の地域に残るばかり、ふだんの生活には関係がないように多くの人が感じていたはずです。

 

 でもこわがらずにやることをやれば、ある程度の感染予防や症状の悪化を防げることもわかってきました。当初ワクチンがないために恐れられた新型コロナウイルスですが、きわめて短期間でワクチンが作られ、多くの人に接種することである程度流行を抑えることができました。これまた短期間で抗ウイルス薬が作られたのもビックリでした。伝染病治療・予防の歴史から見れば、これはすごいことです。

 

 反面、新ワクチンで健康を損ねたり亡くなった方がいるのも事実です。世の中のすべてと同様、絶対的に良いものや悪いものはありません。良いほうだけを取り上げるのも、悪いほうだけ見るのもまちがったやり方です。コロナの存在を否定するのも、過度にこわがって人との接触を避けようとするのも?と思います。

 

 テレビやネットを観るとき、この情報は事実なのか、あるいは誰かの見解なのかをしっかり考えることがたいせつです。そして一次情報(生のままのデータ)まで自分なりに調べらればさらにいいと思います。

 

2 長生きをするほど幸せなのか?

 

 医学のもう一つ大きなテーマはいかに人間の寿命を延ばすかでしたが、これはほとんど達成されているように思います。ただし、「健康に」という付箋付きで考えると、長寿が必ずしも幸せか疑問に考える声も出てきました。さすがに江戸時代のように60を過ぎれば定年(命が定まる≒そろそろ寿命)と言われるよりは今のほうがずっといいと私も思います。ですが、毎日を充実して生きるには明晰な心とじょうぶな足腰が必要で、単なる長命だけでいいのかとも考えます。

 

 認知症になったり、足腰が立たなくなったりするのが、生活習慣から来るのか素質からくるのかはまだはっきりとしませんが、少なくとも(医師の手を借りずに)自分で工夫し対処できる期間をなんとか伸ばしたいものです。そうすることで生きている一瞬一瞬が宝物となるように暮らしてみたい。みなさんも長生きの意味をとらえなおし、長さ以外のなにかで命を測ってみませんか。

 

3 痛みには原因がある?

 

 医学生のころ、痛みの発生回路について教わり(ホントに電気回路みたい!)と思いました。それからうん十年がたち・・・最近の痛みの考え方は「痛みには原因があることもないこともある。脳が痛いと感じたなら、それが痛みなのだ。」ということになっています。

 

 え?と思いませんか。でも、長いこと痛みを中心として診療を行ってきた経験からはなかなかうなずける説明なのです。心の痛みってほんとうなのですね。からだに何の異常もないのに(医者から見て不可解な)痛みを訴える人をたくさん診てきました。診たての不十分さもあるかもしれませんが、精密な電気回路のようなからだの仕組みからは理解しにくい痛みはやはりあります。そしてよくわからないきっかけで良くなったり、悪くなったりするのです。

 

 良くしてなんぼの臨床医ですが、理屈に合わない経験をすると心が乱れます。そして医学はみなさんが思っているほど整然とした世界ではなく、まだまだ謎にあふれています。かたくなりがちな頭をやわらかくして、なんとかついていきたいです。

 

4 さて、あたらしい考えについていくには

  • 積み重ねられた事実があれば受け入れる・・・一歩一歩まちがいがないか確認しながら事実を積み重ねていく。その結果が世間の常識と異なるように見えてもきちんと検証できていればまずは受け入れてみる。
  • 声が大きいから、有名な人が言うから、正しいと思わない。
  • 昔から言われていても正しいとは限らない。逆に新しいから本当とは限らない。
  • 「専門家」が本当に専門家なのかは慎重に判断しよう。人が聞きたいこと、自分が言いたいことを言うだけの人かもしれません。
  •   わかりやすいことが正しいと限らない。反対にむずかしいから正しいとも限らない。かんたんなことをむずかしく言うほうがありがたがられますが、むずかしいことをかんたんに説明するほうがほんとうはたいへんです。